FC2ブログ

開館12周年記念講演 古代エジプトのヒエログリフで書かれた『ピーターラビットのおはなし』のおはなし

ピーターラビットイベント&報告
05 /29 2018
大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館が開館12周年を迎え、4月15日に記念講演が開催されました。
18d03.jpg 
講師は東京大学付属図書館アジア研究図書館上廣倫理利財団寄付研究部門(U-PARL)の特任研究員 永井正勝先生です。先生は言語学の専門家で、特に聖刻文字(ヒエログリフ)や神官文字(ヒエラティック)などのエジプト語を研究されています。

まずは先生がお勤めのU-PARLについての簡単な説明がありました。東京本郷にある東京大学総合図書館がこのほど改修工事を終え、地下2階から4階までを自動化書庫とし300万冊が収蔵され、4階に世界最高水準のアジア研究図書館が2年後の2020年に開設されるその準備をされているそうです。

関連記事:日本経済新聞2017/11/7付け「地下46mに300万冊納める東大の新図書館

大東文化大学とも縁のある先生で、「言語学特殊講義2」の講義をされているそうです。講義に『ピーターラビットのおはなし』について取り上げた際、学生さんからピーターラビットの解釈について面白いエピソードなども紹介されました。あえてここでは内緒にしておきますけれどもね(笑)

1時間の講演でしたが、前半はビアトリクスの生い立ちに始まり、『ピーターラビットのおはなし』が誕生するまでの解説があり、後半はいよいよ本題の古代エジプト文字による『ピーターラビットのおはなし』についておはなしでした。

そもそも何故ヒエログリフ版を出版することになったのか?

その答えがヒエログリフ版の序文(Translators' Note)に記載されていました。ヒエログリフ版としての翻訳が35言語目で、ラテン語、スコットランド語ときてタイミング的にもちょうど良かったこと。

しかし、ビアトリクスが描いた世界と古代エジプトはあまりにもかけ離れていて、訳者の苦労は絶えず、問題がいくつも山積みだったとありました。
18d01.jpg
例えば、このおはなしの基本的な部分「ウサギ」という言葉の解釈は、ピーターはヨーロッパ・アナウサギ(Lepus cuniculus)であるが、エジプトにはもちろん存在しない種類なので、アフリカに広く分布するケープノウサギ(Lepus capensis)を示す、エジプト語のアルファベット表記で「Skhat(セヒャト、日本語でウサギ)」としたと序文に示されていた。

元々ヒエログリフには「ウサギ」を示す言葉「wn(ウヌ)」が広く使われていたため、その言葉も強調されなければいけないとも序文にありました。それが本文1行目の最初の言葉です。「ウサギ」の部分だけを訳してみると「ケープノウサギというウサギがいました」となるのかしら?

また、動物の雄と雌の違いを古代エジプトでは表現しないため、これをどのように訳すかという点も問題だった。それぞれ、着座した男性、着座した女性で区別することにした。
というように序文に翻訳で苦労した内容が綴られています。

翻訳者は古代エジプトの医学研究者のジョン・ナン博士(Dr. John F. Nunn)、エジプト文学の専門家 オックスフォード大学教授 リチャード・パーキンソン博士(Dr. Richard B. Parkinson)が担当され、永井先生曰くスペシャリストなお二方が翻訳されているだけあって「さすが」というか「そうきたか」というか「なるほど」という、とても楽しそうに説明してくださいました。

しかし、私達はおはなしを熟知してても、どこからどこまでがどうなっているのかさっぱりなので先生が楽しそうにお話くださるのをただ不思議そうに見守ることしかできませんでしたが、そのごく一部分をひも解いてくださいました。

翻訳に関する難しい定義もありましたがその部分はかっ飛ばします。
 
まず、タイトルのヒエログリフは、四角で区切った部分がその単語を示しているのですが、それぞれ「Tale of Peter Rabbit」となります。読み方は「セジェッド エン p-t-r セヒャト」だそうです。

18d05.jpg 
本文1行目で先生に教わったヒエログリフ、青の四角で囲った「Peter」の部分、最後に人の形をした男の人の文字は「着座した男性」で、これが漢字に置き換えるとにんべん、てへん、きへんなどのカテゴリーを示す「義符」のようなもの。

もうこの時点で????ですが、着座した男性の前にくっついている「しかく、半円、葉っぱのような形」はそれぞれ「p」「t」「r」の子音で、母音を表す文字がないので、「p-t-r着座した男性」で「peterオス」となります。(こんなに簡単な説明ではなかったはずですがお許しを)

こうして義符に注目して表紙のタイトルをみると、「Tale」は最後に口を手でふさぐ人の姿で「おはなし」となり、「Rabbit」はうさぎの義符がついています。

これを踏まえて本文1ページ目のフロプシー(Flopsy)、モプシー(Mopsy)、カトンテール(Cotton-tail)の部分、義符は着座した女性になり、f-rw-w3-p-s-y(Flopsy)、m-w3-p-s-y(Mopsy)、カトンテールのCotton(綿)は古代エジプトに存在しないのでLinen(麻)にしましたという脚注があり、sed-mebewセドメフ(Cotton-tail)と訳されている。

フロプシー、モプシー、カトンテール、ピーター、この調子で原文と照らし合わせながら読み解くと、Motherは着座した女性がついているところから緑の部分かな?とか、もみの木は木の義符があることからこれかな?とちょっとだけ読める!!!!(古代エジプトにはもみの木はなく、杉に置き換えられている)

古代エジプト語が読めるなんてすごい!!!(そこに書かれているのは『ピーターラビットのおはなし』ですから。テストの答えをあらかじめ知っててテストを受けるみたいな?)

どんな言語も一番覚えやすいのはなんといっても数字だと思うのですが、「あるところに4ひきのうさぎがいました」の「4」はどこだって探したら、「棒が4本」あるじゃないですか。

「くろぱんを1ぽんと、ぶどうぱんを5つかいました」の部分は、それぞれ「棒が1本」5の部分は「棒が上に3本、下に2本」となってました。「うえきばち3つ」は「棒3本」、どうやら数字は棒の数で示すようです。

では、古代エジプトには存在しないものを言葉に置き換えなくてはならない場合、翻訳の方法として「音訳借用」や「字訳借用」などの方法を用いて訳すそうです。
例えば、日本語の「ホットドッグ」は音訳借用になり、中国語では「熱狗」と字訳借用となります。

「くろなきどり(Blackbird)」は「黒い鳥」と字訳借用で置き換えられ、その他にも序文や脚注に書かれている通り、「手押し車(wheelbarrow)」は「ソリ(Sledge)」に、「くろいちご(blackberry)」は「甘い果物(sweet fruit)」、「すぐり(gooseberry)」は「果物(fruit)、「じゃがいも(potato)」は「大地のリンゴ(apples of the earth)」、「パイ(pie)」は「温かいパン(warm Bread)」など。

古代エジプトの言葉に置き換えられることで、この時代の人々に名作絵本が読み通じるかもしれないと思うと興味深かったです。

講演の終盤は、置き換えらえた言葉当てクイズのようになり、エジプトは雨が降らないので傘(umbrellas)はどのように表現したでしょう?答え:日傘(sunshade)
靴は?答え:サンダル
じょうろは?答え:陶器
金魚は?答え:赤くぴかぴかする
2週間(fotnight)を20日間と表現しているのは何故?答え:1週間が10日間だから


こんな風にヒエログリフを楽しく教えていただきました。

18d07.jpg 
おはなしの最後「The End」の部分は、エジプト文学のスタイルに倣って、「女性作家ビアトリクス・ポターの書物に見られた通りに、それは、はじめからおわりまで来た」と終わるのがスタイルだそうです。
聖刻文字のビアトリクス・ポター
世代を超えて愛される児童文学作品が、聖刻文字(ヒエログリフ)に翻訳され未来へと受け継がれていくんですね。

次は映画「メッセージ」のように異星人の言語に翻訳され、宇宙へ旅立つ日もあるかもしれません。な~んてね。

毎年楽しみな記念講演、12周年も素晴らしい感動を与えてくださいました。ありがとうございました。

ラピータ

ピーターラビットの生みの親ビアトリクス・ポターの愛好家で、作品について、開催されたピーターラビットのイベントやグッズ紹介、ピーターラビットの故郷英国について紹介するホームページ「ラピータの部屋」のブログです。
ブログに掲載している写真はすべて転載禁止です。