前回の英国旅行記で書いたリングホームの続きです。
前回の記事を書いてから随分と経過したので簡単に説明すると、リングホームは、ビアトリクス・ポターが1885年から1907年までの間、夏から秋にかけての休暇を過ごすための避暑地として、家族とほぼ毎年滞在した場所で、『りすのナトキンのおはなし』の舞台になった場所です。この敷地の一部が2016年より公開されることになり、一般旅行客も訪れることができるようになりました
前回の記事は、リングホームの汽船が到着する船着き場から見える風景について紹介しました。6月とはいえ何も遮るものがない桟橋は、風をまともに受け体感温度が下がります。上着を着用していたとはいえ、冷えには勝てず、気がつけば独りぼっちで撮影していました。
もう一度リングホームの地図を見ていただくと、森に囲まれた全体がリングホームの敷地(東京ドーム約3個分)で、地図にある赤く塗られた点線部分のみ自由に行き来できる個所として開放されています。見学できる箇所として前回紹介した桟橋の他に、地図の中央部分にある八角形の壁に囲まれた庭と、その向かい側にショップが併設された地図の「キッチン(kitchen)」となっているオープンカフェがあります。
ピーター?愛嬌のあるピーターがお出迎え。
オープンカフェ
ハムホックサラダ&カモミールティ 10.6ポンド
桟橋から戻って友人たちを探すと、オープンカフェで食事中でした。本当はここで食事する予定ではなかったのですが、朝から移動と予定を詰め込み過ぎて疲れが出たのと、冷えた体を温めるため休憩タイムとなりました。
私は、サラダだったら間違いないでしょうと思い「ハムホックサラダ」を頼んだのに、ブルーチーズがたっぷり入っていて、新鮮な野菜すべてにブルーチーズの香りが漂い、臭くてまったく食べられません。美味しそうな新鮮野菜は、目の前の八角形の壁に囲まれた家庭菜園の庭で収穫されたものです。ブルーチーズさえなければ食べられたのに。。。
資料館の皆さんは、アフタヌーンティーセットを旅行前に予約されていたため、カフェではなく別の場所へと移動されました。この別の場所というのが、後で調べたらすごい場所だったのです。
ビアトリスがスケッチをしたという温室。温室の向こう側に見えるのがリングホーム。
現在公開されている八角形の壁に囲まれた庭は、2016年にリングホームが一般公開されるのを機に、昔の測量図を参考に正確に再現されたものですが、以前と同じ場所ではなく、リングホームの建物より少し北側の位置に再現されました。
昔の八角形の壁で囲まれた庭にあったもので、唯一残されているのが、資料館の皆さんがアフタヌーンティーを楽しんだ別の場所、温室です。
この温室に使用されていた骨組みの木材は、良質なものが使用されていた為、修復してカフェの一部として再利用されています。この温室でアフタヌーンティー(予約必要)が楽しめるのは、毎回ではないようですが、運が良ければ楽しめるそうです。まさしく皆さんは運が良かったということですね。残念ながらその時の写真はありませんが。
ショップ
ピーターラビットグッズが一番目立つ場所に陳列してありました。BBC(英国放送協会)で毎週日曜日放送される3Dアニメ「ピーターラビット」が、英国で大変人気だそうです。ハリーポッターをも意識して制作されているとのことで、原作にはないピーターの恋人役も登場し、2016年にアニメのアカデミー賞と呼ばれるアニー賞も受賞するほど高い評価を得ています。そんなアニメキャラのグッズも豊富にありました。
3Dアニメキャラの手押し車
八角形の壁に囲まれた庭
ショップから少し下がった位置にあるのが、八角形の壁で囲まれた家庭菜園です。見るからに新しい庭ですが、こちらは2016年の公開を前に1890年代の測量図(survey map)を基に再現されました。
オーク材のドア
この庭の入口に付けられたドアは、以前リングホームの入口で使用されていたものです。1950年代に、リングホームのドアの取り替え工事が行われ、以前のドアは保管されていたものが再利用されています。
私たち一般観光客は、リングホームに近づくことができないので、ビアトリクスもきっと何度も利用したであろうこのオークのドアは、屋敷に関するもので唯一見ることができます。
この庭にぐるりと1番から8番までガーデンパネルが設置されています。
温室を中心に小道があり、真ん中で分岐して左右に分かれる道があり、一方はリングホームへ、もう一方は桟橋へつながっています。
ガーデンパネルの3番に、『ピーターラビットのおはなし』とマグレガーさんの畑についての解説がありました。
このパネルの中央の上に、ビアトリクスがこの庭をスケッチした作品が掲載されています。真っすぐに伸びた小道の両脇に色々な植物があった様子が描かれています。再現された庭は、まさしくビアトリクスが描いたそのままですね。
さらにこのパネルに『ピーターラビットのおはなし』について、ピーターがくぐった木戸やマグレガーさんの畑について紹介されていました。
『ピーターラビットのおはなし』は、1902年出版社の要望で、挿絵に色をつけるという条件で出版されることになりましたが、ビアトリクスは後の手紙のやりとりで以下のような種明かしをしていました。
「もしもマグレガーさんの菜園と木戸のモデルがどこかにあったとすれば、たしかケジック近郊のリングホームだったと思う」と書いています。
しかし、その続きがあり「だけど造園家が庭を壊して新しく設計しなおし、散歩道をつくってしまったので、もうあそこへ行って探しても無駄です」とありました。
(参照:「Beatrix Potter 1866-1943 The Artist and Her World」P104)
それから、ピーターラビットが出版される前に制作した私家版についてのエピソードもパネルにありました。私家版の口絵として、1枚だけ色付けされた挿絵がありますが、これはリングホームから印刷会社へ送られていることが分かっています。
ビアトリクスにとってリングホームは、『りすのナトキンのおはなし』の舞台だけではなく、『ピーターラビットのおはなし』の挿絵に色をつけるための舞台でもあったのですね。
そしてビアトリクスが壊されたと嘆いた庭園は、以前のものが再現されていますから、皆さんも聖地のひとつとしてその息吹を感じ取ることができるはず。
リングホームのもうひとつ有名なことといえば、花が好きな方や園芸家などが興味を持たれることかもしれませんが、世界で認知されているリングホームの名前のついた「リングホームポピー Lingholm Poppy(Meconopsis Lingholm)」というここだけの品種があります。特徴はアジュアブルー(azure blue)という薄い青色、空色のような色だそうです。
この場所にやってきた際、ドライバーのデレックが最初に連れてきてくれた優先駐車場の裏手で何とはなしに撮影したものに、その貴重なポピーが写っていました。一般公開されている中では見かけなかったので、花の時期により公開されているのかもしれません。この花についての説明は、ガーデンパネル8番にありました。
庭をぐるりと一回りした後、敷地の外の駐車場へと続く道へ。敷地の外に近づくにつれ、大木に囲まれた森となり、こうした日が陰った森の中になるほどジギタリスが元気に群生していました。
ようやく夢が叶ったリングホームへの訪問でしたが、訪問できる場所が一部だったため、少し物足りなさが残ったも事実です。
それこそ贅沢な悩みですが、りすのナトキン(アカリス)には出会えなかったし、ビアトリスが歩いた湖畔沿いも歩けなかった。ナトキンがボーリングをしたフラットな岩も見つけられなかったと嘆いていたら、出口にいくつかの岩が並んでいました。この岩のどれかがナトキンが遊んだ岩かもしれませんよと、リングホームがビアトリクスファンに対しサービスしてくれているのでしょうか?
この後少し時間があったので、隣にあるフォーパークへ。リングホームの目の前のフットパスをケズィック方面に10分ほどで到着。
ここは私有地のためフットパス沿いにしか見ることはできません。この
ひとつ前の旅行記でダーウェント湖湖畔から見たフォーパークの建物一部は見られましたが、フットパス側からは庭のほんの一部と、、、
石垣
フォーパークは、1903年にビアトリクスが避暑地として滞在した場所で、『ベンジャミン バニーのおはなし』の舞台となった場所。そして見ることは叶いませんが、ビアトリクスがおはなしに描いた通りの庭を、そのまま維持されているそうです。でも唯一見られるものとしてこの石垣は、ピーターとベンジャミンが洋なしの木をつたって降りた場所であり、ベンジャミン・バニー氏が颯爽と登場した場所です。
石垣の隙間より見えたフォーパークの庭
石垣のすぐそばにある洋なしの木の枝と、ピーターとベンジャミンが石垣から見たような、遠くにダーウェント湖が見えました。リングホームに観光にいらっしゃる際は、ぜひフォーパークの石垣もご覧ください。
少し長くなりましたがリングホームの旅行記はここまでです。次の英国旅行記は、私も行ったことがない場所で、河野先生がいらっしゃるからと大船に乗ったつもりが、ドタキャンとなり皆さんを無事に案内できるかとても不安だった場所へと向かいます。この続きは次の旅行記ブログにて。最後までお読みいただきありがとうございました。
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