次の場面(2)、お母さんは子供たちに話しかけます。「you may go int the field or down the lane 野原か小道に行っても構わないけれど」、「but don't go into Mr. McGregor's garden マグレガーさんの畑に行ってはいけませんよ」と注意します。しかしその理由(お父さんがマグレガーさんの奥さんにパイにされた)は書かれていません。
次の場面(3)、ピーターが脇目も振らずにマグレガーさんの畑にかけつけますが、その前のテキストを「but Peter, who was very naughty」で切り、次のテキストを「ran straight away to~」と繋げ、走るピーターの絵を描きました。絵本の手法を既に確立しているかのようです。それからその隣の絵に、「squeezed underneath the gate ゲートの下に体をねじ込んだ」としました。私家版、商業版は、「under the gate」ですが、どちらも真下という意味ですが「underneath」の方がよりその空間が狭くなり、まさしく体をねじ込ませたという表現が相応しいのです。
「お腹の具合が悪くなりパセリを探しに行く」というのはテキストのみで、ばったりマグレガーさんと出くわします。ここは絵を描くスペースの関係なのか、ピーターがパセリを探しに行き、ところがキュウリの苗床の角を~ he went to look for some parsley; but round the end of a cucumber frame~」と文章が続きます。商業版では、ピーターがパセリを探しに行く場面が追加され、「パセリを探しに行きました。」と文章が切れます。
次の場面(4)、私家版と商業版でマグレガーさんが「膝まづいて on his hands and knees」の部分は、「Mr McGregor was planting out young cabbages マグレガーさんはキャベツの苗を植えていましたが」と「膝まづいて」は最初ありませんでした。そしてレーキを振り上げ「まてえ!どろぼう!」と怒鳴りながらピーターを追いかけます。ここはおはなしの挿絵同様に、ピーターがどれだけ足が早いかというのがこの絵からも伝わってきます。この絵は、白黒線だけでスピード感を見事に表現していて、ドキドキ・ハラハラ感が子供に良く伝わるのではないかと思います。
次の場面(5)、「もう片方の靴をジャガイモ畑で失くした」というテキストから始まり、「靴を失くしたので、4本足でかけだしたピーターはその方が早く走れたので、うまく逃げ出せただろうと私は思いますが、so that I think he would~」となっていました。私家版と商業版は、「so that I think he might~」となり、「would」から「might」になったことで仮定法でなくなり、「うまく逃げ出せたと私は思いますが、」と少しニュアンスが変わりました。
さて(5)の場面に戻り、グーズベリーの網にがんじがらめになっているピーターです。ここはほぼ完成形のテキストですが、「got cought fast by the large buttons on his jacket.」の1ヵ所だけ、「got caught 引っかかった」だけでも充分なところに「fast 動かない、しっかりした、ぐらつかない」とあり、「運悪く、グーズベリーの木にかけてある網に飛び込み、ジャケットの大きなボタンが引っかかり抜けなくなってしまいました」と、ピーターのどういう状況かをテキストが伝えています。私家版と商業版は「fast」は削除されました。この場面の最後のテキスト「その青いジャケットは真鍮のボタンがついてまだ新しかったのに。」とあります。この部分は、私家版、商業版でお母さんが「ピーターは2週間の内にジャケットを2着も失くして」につながる部分ですが、絵手紙にはその部分がありません。
次の場面(6)、「ピーターはもうだめだと思って大きな涙を流しますが、スズメが励ましてくれる」部分は絵手紙にはありません。グーズベリーの網に引っかかって、マグレガーさんが「basket バスケット」をポーンと被せようとします。私家版と商業版は、バスケットではなく「sieve ふるい」に変更されました。ここのテキストの「p」の破裂音が連続する部分「which he intended to pop on the top of Peter~」は、絵手紙の時点で既に思いついていて、このフレーズがあるからこそ主人公は名前がピーターでなければいけなかったのではないかと思えるほどです。もし最後がベンジャミンでしたら、文章が引き締まりませんものね。さらに「pop on the top of Peter~」を、私家版、正式版では、「pop upon the top of Peter」と意味は同じですが、文章を読むのがさらに楽しくなる工夫もこらしています。
マグレガーさんは、バスケットを見当でポンとピーターの上にかぶせようとしましたが、ピーターは「wriggled out just in time~ ちょうどその時ごにょごにょと体をくねらせて」何をしたかと言いますと、「leaving his jacket behind, ~ ジャケットを後ろに脱ぎ捨て逃げ出しました。」となります。そして、なんと出口を見つけて木戸の下からくぐり抜けて無事に家に帰りました。私家版と商業版は、次に納屋へ逃げ込み、じょうろに隠れて、ドアを見つけたけれど太ったウサギが抜け出る隙間はなく、さらにマグレガーさんのネコがいてと後半の盛り上がる部分ですが、そういった部分は絵手紙にはありません。畑から逃げ出す木戸の上にピーターに頑張って逃げるようにと励ましてくれたスズメ3匹は、商業版で追加されました。
次の場面(7)、マグレガーさんは案山子にピーターのジャケットと靴を「hung up 引っ掛けました」。その理由は、「frighten the blackbirds クロウタドリを怖がらせる、脅かして追っ払う」ですが、逆にジャケットを着た案山子はクロウタドリを引き寄せます。その数はちょうど5羽です。
ピーターはその晩、具合が良くありませんでしたの後に、「in consequence of overeating himself 食べ過ぎが原因で具合が悪い」とその理由があります。私家版ではさらに詳しく「in consequence of having eaten too much in Mr. McGregor's garden. マグレガーさんの畑でたくさん食べ過ぎたのが原因で」と書きました。しかし、商業版はどうして具合が悪くなったかというその理由を削除しました。その代わり、巣穴の中の様子「nice soft sand on the floor of the rabbbit-hole 巣穴の床の土はとっても居心地の良く」や、お母さんの気持ち「ピーターが2週間の間に服と靴を失くしたことをどうしたのでしょう」と、お薬を作る挿絵を追記しました。私家版と商業版で口絵にしたお薬を飲ませる絵の部分は、絵手紙だけおはなしの順番通りに配置されています。この絵をノエルに見せたいがために、ピーターは具合が悪くならなければならず、「お母さんの言いつけを守ってお薬をのみなさいよ、ノエル」というビアトリクスの気持ちがこめられた絵なんだろうなというのが伝わってきます。
そしてお手紙ですから「The End」とする代わりに、ピリオドの後に少しブランクを設け、「I am coming back to London~」と続けています。「私は来週の木曜日にロンドンに戻りますので、あなたにすぐに会えると思います。それに生まれたばかりの赤ちゃんにもね。ノエルへ愛をこめて。ビアトリクス・ポター」で、この絵手紙は終わります。
私が掲載したポストカード画像は「Post Card Wallet & Postcards(8 postcards and Facsimile of original letter」(1992年)から、前回の記事は絵手紙をそのまま復刻したものを掲載しましたが、今回は絵手紙を1枚ずつ切り離しポストカードにしたものを掲載しました。またダラダラと書いてしまいました。誤字脱字、読みづらい点などご了承ください。次は、私家版について書いてみたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。