大東文化大学 文学部 英米文学科主催 高校生に向けたオンライン読書会に参加させていただきました

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2023年度 英米文学科主催 高校生に向けたオンライン読書会のお知らせ

 本来ならば大学で英米文学を学ぶことに興味のある方や、英語には自信がないけれど挑戦してみたいという高校生に向けて主催されているもので、私のようなもうすぐ高齢者は参加できないのですが、講義を担当された英米文学科教授の河野先生より招待していただき受講できました。今回はその読書会の報告です。

 参加者は、27名で、高校生の方、大学関係の先生方、大学の卒論でビアトリクス・ポターに関する内容を執筆された方、アメリカ文学専門家の先生もいらっしゃいましたし、ビアトリクス・ポター資料館の現役のスタッフさん、引退されたスタッフさんなど、どちらかというと先生と縁のある関係者の皆さまが多かったように思います。

 15時開始の冒頭、今年の7月に丸善で開催された大学の資料館特別企画展でも紹介された、世界で最初の16ミリフィルムのアニメーション「ピーターうさぎの冒険(1959年)」が上映されました。約11分の映画で、『ピーターラビットのおはなし』と『ベンジャミン・バニーのおはなし』をまとめたものです。この映画を見終わった後、映画を制作された高橋克雄さんの娘さんより、「アニメーションと紹介されるのですが、人形劇を実写化したもので、アニメーション1部のみです」と解説がありました。映画を製作された高橋さんは、動物が大好きで映画を制作される1950年初期から人形劇として各地で公演されていたそうです。

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 さて、本題の読書会ですが、課題図書は「The Tale of the Flopsy Bunnies」です。これは、『ピーターラビットのおはなし』、その翌日の物語『ベンジャミン・バニーのおはなし』に続く3部作目のおはなしです。このおはなしに触れる前に、「アップリケと刺しゅうでつくるピーターラビットキルト」(アシェット・コレクションズ・ジャパン2018年5月創刊 現在141号継続中)という冊子に、河野先生がコラムを執筆されていることが紹介され、そのキルト7号で執筆された『フロプシーのこどもたち』のコラム、こちらの文章がおはなし全体を分かりやすくまとめてあるということで、まずはそのコラムの内容を読むことから始まりました(キルト7号もしくは絵本のはなし5を持っていらっしゃる方は、ぜひ冊子をご覧ください)。

 タイトルになった「Flopsy(フロプシー)」は、『ピーターラビットのおはなし』でいたずら好きなピーターと違って良い子として登場し、『ベンジャミン・バニーのおはなし』の冒頭でベンジャミンのcousin(いとこ)と紹介され、「きつねのトッド」でも義理のお父さんうさぎの耳をねじってひっぱたくとしても登場します。また、このおはなしのキーワードにもなっている「soporific(睡眠作用)」というちょっと難しい言葉について、以前テレビ放送された内容についての解説がありました。

 こうした情報を踏まえたうえで、いよいよ課題図書「The Tale of the Flopsy Bunnies」を英文で読みながら、大事なポイントを解説していただきました。

ポイント1)soporific(睡眠作用)
ちょっと分からない難しい言葉を使用することで怖さを引き出す効果。
例えば、シェイクスピアのジュリアス・シーザーといえば、「ブルータスお前もか」という有名なセリフがありますが、原文ではラテン語だそうです。このように分からない言葉を使って怖さを引き出すという効果があるそうです。

ポイント2)ピーターラビット&お母さん:フローリスト農園
おはなし冒頭でピーターラビットが登場するシーン、「ピーターラビットと一緒にいるウサギは誰?」という謎に対して、キルト36号で紹介した内容に触れながら、初版と2刷ではピーターの畑の前に看板があり、そこに「ピーターラビット&お母さん:フローリスト農園」と書かれていました。ですから本文に特に説明がなくても、一緒にいるのはお母さんと分かるのですが、1909年11月の3刷より、外国語出版する際に看板の英語を異国の子供たちには理解されにくという理由で削除されました。

ポイント3)「s」で始まる単語について
フロプシーのこどもたちが、マグレガーさんの畑のゴミ捨て場で見つけた薹(とう)が立ったレタスの葉をお腹いっぱい食べてスヤスヤと眠っている所に、マグレガーさんが芝刈り機で刈った草を捨てに来た場面。マグレガーさんに見つかりませんようにと読者は、ハラハラドキドキするというのに、こどもたちは目を覚ましそうもありません。

この場面のテキストは、「s」で始まる単語で整えられていて、「smiled」「sweetly」「sleep」「shower」と、この「s」で始まる単語は、どちらかと言うと柔らかくて、すがすがしい、そんな発音の響きが読者を和ませているのだそうです。ここは作者の意図を汲み取り翻訳しなければいけないところですね。

先生の翻訳は、アシェットのもうひとつのピーターラビットシリーズ、「ピーターラビットの世界 イングリッシュガーデン&ハウス」でご覧になっていただくとして、英語力ゼロの私が挑戦してみます。

「The Tale of the Flopsy Bunnies」より
The little rabbits smiled sweetly in their sleep under the shower of grass; ~

こどもたちは、たいそうある草の下でこころゆくまで気持ちよくすやすやと眠っています~

まっ、私の訳などは忘れてください(^^;

フロプシーのこどもたちがすやすや眠っているのに対し、マグレガーさんの動作も「s」で整えられています。

「The Tale of the Flopsy Bunnies」より
They stirred a little in their sleep, but still they did not wake up.

マグレガーさんが小ウサギたちを袋に詰める時、同じく「s」で整えたと考えられるという先生の解説でした。改めて挿絵を見ると、マグレガーさんの手のひらに優しくホールドされ、そおっと袋に詰められています。捕まったら食べられるかもしれないということを一瞬忘れそうになるぐらい優しい手つきですね。挿絵とテキストの「s」効果で、捕まったということを忘れそうになりますね。

ポイントその4)マザーグースのメロディ
マグレガーさんが捕まえた小ウサギたちを奥さんに自慢する際、"One, two, three, four, five, six lettle(littleが訛った言葉) rabbits!"と言います。
これは、作者ビアトリクスが意図した訳ではないと思いますがと注釈がありつつ、1765年ジョン・ニューベリーのマザーグースの子守唄に、「'One, two, three, four and five, I caught a hare alive; Six, seven, eight, nine and ten, I let him go again'というのがあります」と解説がありました。

ビアトリクスの作品によく登場するマザーグースですが、こうした何気ない箇所にも意識しているかもしれないと思うと、深読みの大切さを改めて感じます。

ポイントその5)2つの物語を下敷きに
最後に、このおはなしは2つの物語を下敷きにしているということで解説がありました。

ひとつめは、イソップ寓話「ライオンとネズミ」(1521年)です。ネズミを捕まえたライオンが食べようとしたら必ずお役に立つ時がありますからと命乞いをし、今度はライオンが猟師に捕まりロープで繋がれていたらネズミがやって来てロープを齧ってライオンを助けるという短いお話です。

ふたつめは、皆さんもよくご存じの「赤ずきん」です。オオカミがおばあさんと赤ずきんを丸のみしてベッドで横になっていると、猟師がおばあさんの家から高いびきが聞こえ、不信に思いオオカミを発見。お腹をジョキジョキ切って、赤ずきんとおばあさんを助け、代わりに石を詰めるというお話です。

こうしたお話を下敷きにしたと思われるということを文学用語で「Intertextuallity(間テクスト性)」と言うそうです。また新しい文学用語を教えていただきました。いかなるテキストもそれのみが独立しているのではなく、先行する多くのテキストが関連付けられ存在するということを指す概念だそうです。

ポイントは以上です。

読書会の最後に、「The Tale of the Flopsy Bunnies」がそのお話の舞台となったウェールズの北、テンビーにあるグウェニアノグ(Gwaenynog)ですが、ここはビアトリクスの叔父フレッド・バートンの屋敷でした。ビアトリクスはフレッド家に13回滞在し、美しい庭園をスケッチし、おはなしの舞台としました。先生が渡英された時、グウェニアノグでこのおはなしの寸劇が開催されるとあり、参加された時の様子を最後に少しご紹介いただきました。6匹の小ウサギ役を務めたのは、ビアトリクスのグレート・ニース(甥や姪の孫)で、マグレガーさんが小ウサギたちを袋に詰める場面では、寝ているはずの小ウサギ役の孫たちが起きて自ら袋に入るというオチで、観客席から思わず笑い声が聞こえました。

それから、日本農業雑誌に掲載された世界最古の翻訳である「悪戯な小兎」(1906年)で、フロプシーではなく、エロプシーと訳されたことに関し、先生の推察ですが、「F」と「E」は見間違えやすく「Flopsy」ではなく「Elopsy」と思ったのではないか?というご意見でした。

最後は、昨年放送された「プレミアの巣窟」(2022年5月1日放送)で、先生がテレビ取材で出演者の質問に対し、思わず口からこぼれ出た名言でこの読書会は締めくくられました。

番組出演者:
最後にピーターラビットの魅力について教えてください。

河野先生:
これは絵本を読んでもらっている人には分かると思うけど、行きて帰りしの物語で、マグレガーさんに追いかけられハラハラ・ドキドキして、家に帰りついて煎じ薬を飲まされる。アンハッピー・エンディングでもないし、ハッピー・エンディングでもない。文学としては高尚なもの。まだ明日があるんだよと。何度読んでも飽きないのがピーターラビットの魅力なのかなと思います。決して錆びない!少し言い過ぎかもしれませんが、絵本のシェイクスピアかなと思います。

以上、大東文化大学 文学部 英米文学科 教授 河野芳英先生による「高校生に向けたオンライン読書会」課題図書:「The Tale of the Flopsy Bunnies」の報告でした。最後までお読みいただきありがとうございました。
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ラピータ

ピーターラビットの生みの親ビアトリクス・ポターの研究家で、作品について、開催されたピーターラビットのイベントやグッズ紹介、ピーターラビットの故郷英国について紹介するホームページ「ラピータの部屋」のブログです。
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